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―スピンオフ― 変わらぬ愛情・優しい心 『黒柳リュウジ✗芽衣子編』25

last update Last Updated: 2025-01-20 18:00:52

リュウジside

芽衣子を病院へタクシーで連れて行き、朝になると社長から電話が鳴った。

人が少ない階段で電話を折り返す。

『リュウジ。朝一で会社来なさい』

「……えっと。なにかやらかしましたか?」

『自分が一番わかってるでしょ? 目立つ行動をして』

「…………はぁ。了解です」

電話を切って壁に背をつけた。

撮られちゃったかな。

病室に行くと、芽衣子は体調がだいぶよくなったようで、安心した。

見届けてから事務所に直行する。

マネージャーが事務所で待っていた。

「おはよー」

「呑気すぎますよ……。撮られましたよ。どうしましょう」

「べつに……焦ることないでしょ?」

クスッと笑った俺の態度がイラついたのかマネージャーは、眉毛をピクピク動かし鼻息を荒くした。

社長室に行く。

午後からの仕事だから時間はたっぷりある。

ノックして入ると大澤社長が「座りなさい」と言った。

二人きりの社長室には嫌な空気が流れている。

座るとテーブルに置かれたのは数枚の写真だった。

俺と芽衣子がタクシーに乗り込んでいるところと、病院に到着したところだ。

「明後日発売のものに載せるそうよ。これは、リュウジで間違いないわね」

「……間違いないですねぇ」

「一緒にいる女性は誰?」

何年も誰にも言ってなかったから少し抵抗がある。

ドキドキしながら名前を告げた。

「……芽衣子」

「芽衣子って、芽衣子?」

こくりと頷いた俺。

社長は意外そうな顔をしていた。

「いつから?」

「五年前から」

「ずいぶんと黙ってたのね。芽衣子とはどうするつもりなの?」

「大樹の結婚が落ち着いたら俺もって思ってるけど……芽衣子次第かな」

「ちゃんと報告しなさいって言ったでしょ?」

「……すみません」
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    「妹が置いていった服ならあるけど。サイズ合うかな」「勝手に借りていいのかな?」「心配なら聞いてやるか」スマホで電話をはじめる。「あ、舞? 久実に服貸していい?」『えー! 家にいるの? 泊まったってことは、えーなに? 付き合ってるとか~?』ボリュームが大きくて話している内容が聞こえてしまう。「付き合ってくれないけど、まぁ……お友達以上だよ。じゃあな」お友達以上だなんて、わざとらしい口調で言った赤坂さんは、得意げな顔をしている。「……じゃあ、お借りするね」黒のニットワンピース。着てみるとスカートが短めだった。ひざ上丈はあまり着たことがないから恥ずかしい……。着替えている様子をソファーに座って見ている。「見ないで」「部屋、狭いから仕方がないだろう」「芸能人でお金もあるんだから引っ越ししたらいいじゃない」「結婚する時……だな」その言葉にドキッとしたが、平然を装った。私と……ということじゃない。一般的なことを言っているのだ。メイクを済ませると赤坂さんは立ち上がって近づいてくる。見下ろされると顔が熱くなった。「可愛い。またやりたくなる……」両頬を押さえつけたと思ったら、キスをされる。吸いつかれるような激しさ。顔が離れる。赤坂さんの唇に色がうつってしまった。「久実……愛してる」……ついつい私もって言いそうになった。「せっかく 口紅塗ったのに汚れちゃったじゃないですか」 私はティッシュで彼の唇を拭った。 すると 私の手首をつかんで動きを止めてまた さらに深くキスをしてきた。「……ちょっ……んっ」「久実、好きって言えよ」「……時間だから行かなきゃ」

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』78

    久実sideふんわりとした意識の中、目を覚ますとまだ朝方だった。今日は休みだからゆっくり眠っていたい。布団が気持ちよくてまどろんでいると、肌寒い気がした。裸のままで眠っている!そうだった……。また、赤坂さんに抱かれてしまったのだ。逃げればいいのに……逃げられなかった。私の中で赤坂さんを消そうと何度も思ったけど、そんなこと無理なのかもしれない。すやすや眠っている赤坂さんを見届けて、ベッドから抜けようとするとギュッとつかまれた。「どこ行くつもりだ」「帰る」「………もう少しだけ。いいだろ」あまりにも切ない声で言うから、抵抗できずに黙ってしまう。強引なことを言ったり、無理矢理色々したりするのに、どうして私は赤坂さんのことがこんなにも好きなのだろう……。もう少しだけ、赤坂さんの腕の中に黙って過ごすことにした。太陽がすっかり昇り切った頃、ふたたび目が覚めた。隣に赤坂さんはいない。どこに行ってしまったのだろう。自分のスマホを見るとお母さんから着信が入っていた。「……ああ、心配させちゃった……」メールを打つ。『友達と呑みに行くことになって、そのまま泊まっちゃった』メッセージを送っておいた。家に帰ったら何を言われるだろう……。恐ろしい。「おう、起きてたのか」赤坂さんはシャワーを浴びていたらしい。上半身裸でタオルを首にかけたスタイルでこちらに向かってきた。あれ……昨日は一人じゃ入れないって言ってたのに。なんだ、一人で入れるじゃない。強引というか、甘え上手というのか。私はついつい赤坂さんに流されてしまう。そんな赤坂さんのことが好きなのだけど、このままじゃいけないと反省した。「今日、休みだろ?」「……うん」「じゃあ、大樹の家行こう」「は?」唐突すぎる提案に驚いてしまう。「暇だったらおいでって連絡来たんだ。美羽ちゃんも久実に会いたがってるようだぞ」美羽さんの名前を出されたら断りづらくなる。優しい顔でおいでと言ってくれたからだ。「でも……服とかそのままだし……」「そこら辺で買ってくればいいだろ」「そんな無駄遣いだよ」まだベッドの上にいる私の隣に腰をかけた。そして自然と肩に手を回してくる。「ちょっと……近づかないで」「なんで?」答えに困ってうつむくと赤坂さんは立ち上がってタンスを開けた。

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